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西山厚さん  Atsushi Nishiyama  奈良国立博物館 学芸部長

西山厚│奈良国立博物館

手にした“元気が出る仏像鉛筆”と“奈良国立博物館オリジナル便箋”は、どちらも西山さんが企画開発した自慢の品

「一番素晴らしいものは奈良にある」
日本の歴史と仏教美術の魅力を
生き生きと伝える伝道師

 西山さんとは奈良国立博物館の取材で出会いました。展示物を一つひとつ、時間をかけて丁寧にユーモアたっぷりに解説してくださったことがとても印象的でした。メディアでも多彩にご活躍で、奈良と博物館のPRに努めておられます。
P R O F I L E
にしやまあつし・1953年、徳島生まれの伊勢育ち。京都を経て、奈良在住。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。日本の歴史と仏教思想について学ぶ。その後、歴史、思想、文学、美術を、トータルに見つめ、書き、生きた言葉で語り伝える活動を続けている。現在、奈良国立博物館・学芸部長。根っからの趣味人を自称、「それらしくもあるが、それらしくないようでもある」とわけわからぬことを言いながら笑う。大の阪神ファン。2003年の18年ぶりの優勝の時は、燃え、祈り、そして泣いた。歌うのが大好きで、十八番はアカペラで歌い踊る「銭形平次」だとか。著書に『仏教発見!』(講談社現代新書)など。

歴史はもっと面白く
もっと美しくて、魅力的なもの

(上)左が西山さん。右ではありません

(右)明治27年完成の奈良博本館は重要文化財

―奈良国立博物館(以下奈良博)ではどんなお仕事をされているのでしょうか?

 奈良博は仏教美術の専門館で、研究員は彫刻・絵画・書跡・工芸・考古・情報の各分野に分かれて仕事をしています。 そのなかで、私は書跡(お坊さんが書いたもの。古文書・古記録、写経など)を担当しています。 いろいろなものを調査研究し、展覧会を開催して、こんな素晴らしいものがあるんだということを 多くの人に知っていただく仕事です。

 学生時代は、鎌倉時代の明恵上人(みょうえしょうにん)のことを勉強していました。京都に高山寺を建てたお坊さんです。 鎌倉時代は、世の中が大きく変わり始めて価値観が揺らぎ、行き先が見えなくなっている時代で、今とよく似ています。 そういう時代を見事に生き切った人たちに関心があるのです。 博物館に入ってからは奈良時代にも関心が芽生えました。とくに聖武天皇にひかれています。

―奈良博でお仕事をされることになった経緯を教えてください。

 それは‥偶然です(笑)。大学院を修了する直前に、指導教官を通して話がありました。 博物館の中のことはまったく知らなかったのですが、「博物館ではどんなことするんでしょうか?」 「好きなことをしていたらいいんじゃないの」、先生とのこんなやりとりで進路が決まりました(笑)。

 当然ですが、実際にはそんなことはなくて、だまされたようなものですが、仏教について勉強している私にとっては 最高の職場で、結果的にはもっとも幸せな道を歩けたと、先生に感謝しています。

 父が歴史家だったので、子どもの頃から歴史は大好きでした。父が聞かせてくれる話がとても面白かったので、 大学の授業はつまらなく感じました。もっと面白くて、もっと素晴らしい、もっと美しくて、 もっと魅力的なイメージを、歴史に対して、昔も今も持っています。


 
―奈良博の秋の行事「正倉院展」は毎年大変な賑わいですね。実際に正倉院の中に入られたことはありますか。

 あります。いいところです(笑)。その魅力は語り尽くせません。宝物の数は、台帳に整理されている数字で9000件。 同じ種類のものをまとめて1件と数えている場合もあるので、実際には数え切れないほどたくさんあります。 ジャンルもさまざま。「なんでもありの正倉院宝物」と覚えてください(笑)。

 今年の正倉院展に何を出すかは、正倉院、つまり宮内庁の方々が決めます。 1度展示されると、少なくとも向こう10年間は展示されません。17日間展示されると、そのあと10年休む。 人に見られるのは疲れますから(笑)。だから、見逃すと、最低10年は待たなくてはいけない。

 宝物は9000件あると言いましたが、正倉院展に出るのはそのうち約70件。毎年すべて違う宝物を出していっても、 全部を展示するには、9000÷70で130年ほどかかります。130年間、毎年正倉院展を見に来ないと、 すべての宝物を見ることはできないわけです。全部見たい人はくれぐれも健康に留意なさって‥(笑)。

―企画展を開催するまでの手順を教えてください。 どのくらいの時間をかけておられるのですか。

 1年間に7つくらいの展覧会を開催するので、残念ながら、じっくり準備する時間がないのが現状です。 それまでの蓄積で勝負する感じで、とてもきびしい状況です。

 展覧会は、どんな素晴らしい企画であっても、宝物をお借りできないと成り立ちませんから、 海外を含む全国各地の所蔵者に借用のお願いに行くことも大切な業務になります。 要するに営業ですね。あるいは巡礼といいましょうか‥(笑)。


西山厚│奈良国立博物館│ユンブル

頭の横にリボンのように見えているハート形は、唐招提寺のうちわ

―海外も含めて、西山さんにとっていちばんのお気に入りのミュージアムはどこですか?

  もちろん奈良国立博物館です。世界最高の博物館だと思っています。


―西山さんが関わられた奈良博の展覧会で、ベスト5を教えてください。

 順不同ですが、まず「天平」。 天平時代のすべてがわかる、最初で最後の大天平展でした。それから「平安仏画」。平安時代の仏画は最高です。 そして「鎌倉仏教」。これは私の企画で、激動の鎌倉時代の仏教を大観した展覧会でした。昨年の「女性と仏教」も私の企画で、 自分で言うのもなんですが、これは素晴らしかったです。ある研究者からは「奇跡のような贈り物」と感謝されました。 日本の仏教は女性抜きでは語れないんです。それが知られていない‥。 一昨年の「東大寺のすべて」もすごかった。日光菩薩・月光菩薩は、どこから見ても完璧でした。

 加えて「ブッダ」ですね。ユンブルの朝日奈ゆかさんと出会った思い出の展覧会です。これを忘れては大変(笑)。

―他のミュージアムも含めて、ここ1年ぐらいの展覧会でよかったものは?

  ダントツ1位は奈良博の「女性と仏教」(笑)。あとは水口文化芸術会館の「箕口博彫刻展 名も無きものの いのちのために」。京都国立博物館での「金色のかざり」。大阪市立美術館の「円山応挙」。 それから京都文化博物館の「白隠 禅と書画」にも驚かされました。

―博物館の理想像と、これからの博物館について教えてください。

 理想像ですか‥。奈良国立博物館の施設をもっと充実させて、職員数をもっと増やしたような博物館ですね(笑)。
 どのような時代・社会になっても、そこを訪ね、その場にある本物の〈もの〉と出会うことが人を動かすのであって、 たとえばハイテク化がどんなに進んでも、ネットの画像は人生には深く関われないはずです。 「いいものはいい」、このことを本当に知ることができる場でありたいと思っています。

―最近、関西の女性誌数誌が奈良特集をしていました。 ブームですね。奈良の自慢をどうぞ。

 一番素晴らしいものは奈良にあると確信しています。数年前から「21世紀は奈良の時代である」 と言い続けてきたのですが、だんだん本当にそうなってきたような気がしています。


―西山さんの発想はどこから湧いてくるのですか。締め切りが迫っているのにアイデアが湧かない時はどうされますか。

 行く。見つめる。触れる。もの思う。考える。しゃべる。本を読む。 そういう過程の中で生まれてくるような気がします。
 アイデアが湧かないことはありませんが、締め切りにはたいてい遅れます(笑)。

奈良公園から無料で入れる地下1階のミュージアムショップ。 カフェもある。"天上天下唯我独尊スタンプ"、"奈良博定規"など「笑えるグッズ」は たいてい西山さんの企画とか

―こんなイベントをやってみたいという企画はありますか。

 24時間ぶっ通しのサバイバル講演会です。眠ってしまった人は強制退場。 もちろん講師も例外ではありません(笑)。誰かホントに企画してくれませんか。 24時間が無理なら、12時間でもいいんですけど‥。

 少し先ですが、2010年が平城遷都1300年の記念の年にあたるので、これで決まり!という 最高の展覧会をやってみたいです。

―オフはどのように過ごされていますか? ご趣味は?

  お芝居を観る。映画を観る。自然の中を歩く。子どもと遊ぶ。本を読む。飲む。しゃべる。歌う。人を笑わせる。 といったところでしょうか。囲碁・将棋のTV番組を寝ころんで観るのも好きです。

 根っからの趣味人なので、「ご趣味は?」と聞かれるとかえって困りますが、そう言えば、連珠(れんじゅ)のもと名人です。 連珠は日本ではマイナーなゲームですが、世界選手権や国際大会も行われていて、海外では盛んになっています。

私が入門してから名人になるまでの艱難辛苦の物語が、「夕刊フジ」に3ヶ月にわたって連載されたこともあります。その頃は、京都の夜の世界でも、「名人!」と声を掛けられました。

―ご自分をどのような人間だと思っておられますか。

  「詩を書かない詩人」と言われたことがあります。美しい言葉、美しい音楽、美しい女性。 それがないと生きられない。ホントです(笑)。でもまっ先に「言葉」が来るのは、 私が「言葉の国の住人」だからでしょうか。

―本日はありがとうございました。

  こちらこそ楽しかったです。今度は奈良国立博物館で、また遊びましょう!


ご登場する方全員におたずねする共通の質問です
Q1 1ヶ月休みがとれるなら何をしたいですか?
締め切りの過ぎた原稿を書き上げる。パリに行く。書き上げられないものがいっぱいたまっているので、完成させてしまいたい、と思っていますが、実際にはずっと遊んでしまうかも‥。パリは大好きで、隅から隅まで歩き回ったことがあります。メトロの地下道に流れるヴァイオリンやアコーディオンの響きも忘れられません。


Q2 ここ1週間で食べたもののうち、いちばん印象に残ったものは?
黒豆。黒豆が好きなので、うれしかった(笑)。

Q3 最近読んだ本で印象的な1冊は?
梅若猶彦(うめわかなおひこ)さんの『能楽への招待』です。 「翁」という舞は、「体は反る心、両眼をふさぐ」という動作から始まるそうです。 「体は反る心」は、実際に体を反らせることではなく、心の中だけで反る。 それでは意味ないようだけど、そのとき演者の体に微細な変化が生じる。 「両眼をふさぐ」も、面をかぶっているので外からはわからないけれど、やはり体に微細な変化が生まれており、 観客は何かを感じる‥。面白かったです。

Q4 最近見た映画で印象的な1本は?
「ローマの休日」(デジタル・ニューマスター版)。今まで見た映画のベスト3は、「無伴奏シャコンヌ」「風の谷のナウシカ」「ローマの休日」。「ローマの休日」は、何度見ても本当に素敵な映画です。オードリー・ヘップバーンが輝いている。それから「半落ち」と「ビッグ・フィッシュ」もよかったです。泣きました。「パリ・ルーブル美術館の秘密」も面白かったけれど、同じ業界に住んでいるので、「もっと秘密があるのに‥」と思いました。

Q5 最近見たテレビ番組で印象的な1本は?
カワセミを追う写真家を紹介する番組。パラダイスキングフィッシャーは、蟻塚(シロアリの巣)に穴をあけて巣にするそうで、興味深い映像の連続でした。矢のように川へ突っ込んで魚をとる美しさ。くわえた魚をたたきつけて骨を砕く荒々しさ。ひっきりなしに雛にエサを与えるまめまめしさ。知らないところで、いろいろな生の営みが繰り広げられていました。ワライカワセミは大笑いしていました。

Q6 最近の社会ニュースで印象的なことは?
イラクの泥沼化。イラクばかりではなく、世界の各地で殺し合いが続いています。仏教の根本思想のひとつは「殺さない」ということ。人間ばかりではなく、あらゆる命あるもの、すべての生きとし生けるものに、限りなき慈悲の思いをなす。これが本当の仏教です。日本の仏教も生まれ変わってもらいたいものです。

Q7 いちばん好きな関西弁は?
「……しはる。」 やさしくて、おっとりしていて、無意識のうちに相手に対する敬意を込めている。こういう言葉を使う若い女性が昔から好きでした(笑)。ウチの娘が使うようになったので、喜んでいます。

Q8 ユンブルとの接点、ご関係は?ユンブルにひとことどうぞ。
朝日奈ゆかさんと出会ってしまった。ユンブルの未来に幸多かれ!

奈良国立博物館 (http://www.narahaku.go.jp/)

所在地

奈良市登大路町50番地

(上)奈良公園の風景に溶け込んでいるのも奈良博の魅力  (左)平成の大修理中の唐招提寺のご本尊「薬師如来」が奈良博で公開されていたときの館内

電話 0742-22-7771
開館
時間
9:30〜17:00
(正倉院展期間は9:00〜18:00・4月最終〜11月第2金曜は〜19:00・1月第2月曜の前日、2/3、3/12、8/15、12/17は〜19:00)
休館日

毎週月曜(休日の場合はその翌日。連休の場合は終了後の翌日)・1/1

  撮影:貝原弘次
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